りぼんの読書ノート

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満開の栗の木(カーリン・アルヴテーゲン)

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「北欧ミステリの女王」による新作とのことですが、本書は決してミステリではありません、ミステリ的な要素はあるものの、それはどんなジャンルの小説にだって共通のこと。本書で描かれるのは、再生の物語なのです。

スウェーデン北部ノルランドの寒村でホテルを営むヘレーナは、疲れ果てていました。別居中の夫との離婚は成立直前であり、思春期の娘エメリーは心を開いてくれません。夫が戻ったストックホルムに行きたがって、夫とも連絡を取り合っているようなのです。自己主張の激しい幼馴染の隣人アンナと仲良くし続けることだって難しい。毎日傷ついて自己憐憫に苛まれ続けながらも、ホテルは開けなければなりません。

そんなホテルに飛び込んできたのは、事業で大成功しながらも、強烈な空虚感から思わず自殺未遂のような事故を起こしてしまった実業家のアンダシュ。ヘレーナに仕事を頼まれたアンダシュは、身分を隠してホテルを手伝い始めるのですが・・。

ヘレーナも、アンダシュも、アンナも、エメリーも、本書の登場人物は誰もが傷ついています。しかも、その傷は自分自身がつけたものであることに気づかず、周囲を恨んで自分を哀れんでいるのです。そのことを皆に気づかせてくれたのは、荒れた小屋に世捨て人のように住み、変人として誰からも無視されているヴェルネルでした。彼はなぜ、数奇な人生を送ってきた末にここに住んでいるのでしょうか。

タイトルの「満開の栗の木」とは、亡くなった伯母からアンナが相続したがっている木のこと。弟夫婦には絶対に渡したくないと思っているのですが、彼女の執着心は消えることはないのでしょうか。

オープン・エンディングなのですが、いかにも北欧的なハートウォーミングな物語でした。ヴェルネルという不思議な人物の存在が不自然なのですが、登場人物たちの心の歪みを気づかせてくれる存在を擬人化したものとでも思えば良いかもしれません。実は「栗の木の化身」だったりして・・。^^

2014/3