ロンドンのホテルで寝たはずのアメリカの実業家ルドルフが、目覚めた場所はベルリンでした。しかも彼は、６２年前の第二次大戦直後に５人の元ＳＳ将校を殺した罪で逮捕されてしまいます。彼は収容所を生き延びたユダヤ人であり、ナチスに直接復讐を果たそうとしたグループに属していた時期があったのです。
いかに戦後の犯罪とはいえ、「ナチスに報復した収容所から解放された老ユダヤ人」を逮捕することは、政治的にセンセーショナルな事件とならざるを得ません。ネオナチがルドルフの処刑を訴える中で、もともと右派であったドイツ首相の支持率は、見る見る低下していきます。しかも穏便に超法規的措置をとろうとすると、新聞に漏れてしまう始末。
事件の解明に乗り出したルドルフの息子ギデオンが、女性検察官のマグダとともに見つけ出すことになるのは、国際政治を操ろうとする恐るべき陰謀でした。誰が何のために、このような大掛かりな事件を仕組んだのか。ルドルフやギデオンはどう扱われようとしているのか。
かなり本格的で重層的なスパイ物語です。イギリス情報部の様子などはル・カレを髣髴とさせますし、陰謀の細部はフォーサイスを思わせるほど。思いがけなく、読み応えのある作品でした。
2014/3
