りぼんの読書ノート

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赤葡萄酒のかけら(ロバート・リテル)

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本書は、十月革命からのロシア内戦時代、スターリン独裁下の大祖国戦争時代を生きた男の希望と絶望、愛と幻滅を描いた大河小説です。

19世紀末のロシアに生まれ、ユダヤ人迫害を逃れてアメリカに移住した青年は、勃興期のアメリカ資本主義に疑問を感じ、ロシア革命の理想に身を投じるためにトロツキーとともに故郷に戻ります。しかし過酷な歴史の大波は、革命への熱い思いを抱く者たちを容赦なく呑み込んでいくのでした。

主人公のアレクザンダーとともにアメリカから革命に参加した友人トゥーイは、スターリン体制の下で政治の階段を上っていき、ついにはユダヤ人をシベリアに強制移住させる計画の責任者となっていきます。

マンデリシュタームがモデルとされる孤高の詩人ロンザは、自殺するかのように痛烈な反スターリンの詩を公然と朗読して逮捕され、彼の詩を全て記憶している妻のアポリナリアは、匿名でスターリンに痛切な手紙を送り続けます。

アレクザンダーの恋人となった貴族出身でアナーキーな情熱を持つリリーは、ウラルの町で皇女アナスタシアを助けたために死罪の宣告を受けてしまいます。彼女が遺したのは幼い娘のルドミラ。

そして、スターリンの暴政下で細々と生き延びてきたアレグザンダーのもとにかつて道を分かった義兄のレオンが訪れてきます。ユダヤ人国家の建設を夢見てパレスチナに渡り、イスラエル工作員となっていたレオンが持ちこんできた依頼は、想像を絶する陰謀だったのですが・・。

前半は『世界をゆるがした10日間』、中盤は『ドクトル・ジバゴ』、後半は『収容所列島』、そして終盤は「冷戦時代のスパイ小説」のような作品でした。

盛り込みすぎにも思えますが、ここで描かれた期間は半世紀弱にすぎません。ひとりの人間の人生の間にいかに多くの出来事が起きたことか、激動の時代の凄まじさをあらためて感じてしまいます。

豊富な内容の割に、小説としての完成度も落ちていません。「鐘の音はロシアが俺を呼んでいると思った。結局は正しい方に来た」との、主人公が最後につぶやくひと言も効いています。

2011/9