りぼんの読書ノート

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天と地の守り人(上橋菜穂子)

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「守り人」シリーズ最終巻は、現世「サグ」と別世「ナユグ」が交錯する世界で、王道に悩む皇太子チャグムと、庶民として用心棒に徹して生きるバルサの人生が再び交差して、壮大なエンディングに向かっていきます。

大国タルシュの侵略を受けた新ヨゴ王国の帝が選んだのは、滅びに到る戦いの道。タルシュの捕虜となって苦難が待つ従属の道を選ぶよう迫られた皇太子チャグムが選んだのは、そのいずれでもない第三の道でした。それは、隣国ロタとカンバルと同盟を結んで侵略者を撤退させるとの構想でしたが、既にロタにもカンバルにもタルシュの陰謀の手は及んでいて、バルサに守られるチャグムにも危機が迫ります。

一方で現世と異なる時間を有する「ナユグ」には長い冬の後の春が訪れつつあり、それは「サグ」の北方地域に温暖化をもたらすため、新ヨゴ王国を大洪水が襲うと予測されます。戦争と天災という2つの大きな脅威に直面し、人々は大切なものを守り抜けるのでしょうか・・。

複数の視点から描いたことが、このシリーズを豊かにしていますね。父帝との不和と国家の危機が重なるチャグムの悩みは実存主義的な香りがしますし、北方侵略をめざすタルシュの2人の皇太子の抗争はプラグマチックでありながら、征服された民から登用された宰相を絡めることによって、ローマや中国の歴史とも通じる深みを出しています。そして、深い喪失感を漂わせながらも虚無に陥ることなく、身近な人々への愛情を失わないバルサのキャラが、やはりいいのです。

このシリーズ、途中で物語世界を狭いものに感じてしまったことから、読むのを中断していたのですが、やはりシリーズは最後まで読まなくてはいけませんね。「サグ」と「ナユグ」の2つの世界の関係にもっと踏み込んで欲しい気もしますが、そこは曖昧なままでよいのでしょう。

2011/9