りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

神の守り人(上橋菜穂子)

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一時は中断したシリーズですが、読んでよかった。ここまでのところでは、シリーズ最高の水準です。この後にも期待しちゃいますね。

このファンタジー・シリーズの主人公は、30代の女用心棒バルサ。陰謀に陥れられた父を幼い頃に失い、父との友情に殉じた養い親のジグロの死後は一匹狼の用心棒となって生き抜いてきたバルサのキャラはもちろん魅力的ですけど、為政者によって歪められた「伝承」に翻弄される「民族の意識」にまで踏み込んだ作品に仕上がりました。

南北の対立を抱えるロタ王国で賎民として蔑まれるタルの民は、かつて異界の力でロタの地を支配した過去があったとのこと。そのタルの民がなぜロタ王室に権力を渡すことになったのか。そこには悲しい過去の秘密があったのです。

そして今、異界の力が再び現世に近づきつつある時代を迎えて、残忍な異界の神が幼いタルの少女・アスラに宿ろうとしています。ロタ王家の「猟犬」と呼ばれる呪術師たちは少女を未然に殺害しようとするのですが、一方で少女の力を利用しようとする勢力が現われ、少女を助けたバルサと幼馴染みのタンダは、あらゆる方向から追われる身となって・・。

恐るべき力を秘めた少女を巡って、過去の憎しみや現在の利害がうごめくなかで、バルサのみがアスラを普通の少女として扱おうとするんですね。現実世界ではともすれば「感傷的」と片付けられてしまいそうな態度なんですけど、そこはファンタジーですから、ね。^^

過去の歴史認識の違いが、現在を生きる人々の感情や判断も左右するような事例は今でもたくさん起きています。「真実」とは何なのか。未来に眼を向けてよりよい判断をすることはできないものなのか・・。難しい問題です。

2011/6