りぼんの読書ノート

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サトリ(ドン・ウィンズロウ)

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日本文化を背景とする海外ミステリの大傑作、トレヴェニアンのシブミの続編が、なんとドン・ウィンズロウによって書かれました。本書は『シブミ』の中でサラッと触れられていたエピソードを膨らませたもの。主人公ニコライ・ヘルの人格と技が形成されるまでを描いた過去の物語「日本編」と、メインストーリーの「フランス編」の間にあった「最初の仕事」が詳しく綴られます。

米軍占領下の日本でCIAに捕われたニコライが釈放の条件として提示された任務は、革命直後の中国に潜入して、ソ連の外交官ヴォロシェーニンを殺害することでした。実はKGB幹部であるヴォロシェーニンは、かつてソ連を脱出して日本にたどり着くことになったニコライの母と因縁もあったのです。フランス武器商人とのカバーを身につけるため、謎の美女ソランジュから訓練を受け、北京に乗り込んだニコライは、CIAの裏切りによって危機に陥るのですが・・。

毛沢東の親ソ路線に反対する中国の将軍や、ヴェトミンの工作員メコンの河川匪賊、サイゴンのコルシカ・マフィア、フランス軍空挺部隊などを巻き込みながら、物語は中国からヴェトナムへと展開していきます。そして、謎の暗殺者コブラの正体は?

一昔前の「007」のようですが、主人公のキャラは違っています。故郷を喪い、日本の心を持つ西洋人であり、どこの国にも溶け込めないニコライは、孤独の影を引きずっているかのよう。そんな彼が一匹狼としてひとり立ちするために必要なキーワードが「サトリ」であるようにも読めるのです。囲碁の技法に状況を喩えて窮地を脱出する思考法と、空手が原型の「裸・殺」という必殺技を持つニコライは、日本人から見たら「怪しい外国人」なんですけどね~。

ともあれ、故トレヴェニアンの大傑作が、似た作風(?)のウィンズロウによって甦ったことは大歓迎です。続編も期待します。

2011/9