りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ヒューマン・ファクター(グレアム・グリーン)

イメージ 1

イギリス情報部の幹部でありながら二重スパイであったことが暴かれ、1963年にソ連へと亡命したキム・フィルビーの事件は、各界に衝撃を与えました。本書は、実際にMI6でフィルビーの部下だったこともある著者が、事件に触発されて著した作品です。

アフリカ関係の内部情報がソ連に漏洩していることを知ったイギリス情報部は、内部捜査の結果、疑わしいとされた男を秘密裏に処分。しかし二重スパイは、定年を控えていた同僚のカッスルだったのです。彼には南アフリカに赴任していた際に恋愛関係になった黒人女性のサラを、共産党員弁護士の助力で国外に脱出させることができた過去があり、その代償としてソ連のスパイになっていたのです。

内部捜査を逃れたカッスルはそのまま引退するつもりだったものの、強力にアパルトヘイト政策を進めていた南アフリカが、イギリスと共同で残虐な作戦を実施する計画を入手。正義感に駆られて、自らの正体が暴かれることを覚悟で最後の情報漏洩を行うのです。彼にとって、忠誠を捧げるべき相手とはイギリスでもソ連でもなく、最愛の妻サラや、我が子のように慈しんでいた連れ子のサムという愛する家族だったのですね。結末はあまりにも皮肉なのですが・・。

本書のテーマは「裏切りとは何なのか」という人間的かつ文学的なものでした。やはり事件に触発されて書かれた、ル・カレのティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイに始まる「スマイリー3部作」はスパイ小説の大傑作なのですが、別系統の作品として読まれるべきでしょう。

2018/4