りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/1 犬の力(ドン・ウィンズロウ)

山田風太郎さんの『明治小説全集14巻』を読了しました。歴史上の人物や事件を独創的なエピソードで繋ぎ合わせて物語を紡ぎあげる手法の見事さもさることながら、どの作品をとっても、明治維新での敗者や歴史に埋もれた人々を思い遣る精神が底流にある、素晴らしいシリーズでした。

1位にあげた『犬の力』は、メキシコ・アメリカ関係史を「麻薬カルテル」という視点から再構成した大傑作。ストーリーも人物造形も見事です。
1.犬の力(ドン・ウィンズロウ)
メキシコ経由でアメリカに流入してくるコカインを追うDEA捜査官アート・ケラーと、麻薬カルテルの支配者バレーラ一族との30年に渡る抗争の物語。両国間で起きた歴史的事実を「麻薬カルテル」の存在を鍵にして再構成する試みが、まず素晴らしい。多彩な登場人物を生き生きと描きだしているから、物語に厚みも深みも出てきます。今後も注目したい作家です。

2.昼が夜に負うもの (ヤスミナ・カドラ)
著者が、自らの故郷アルジェリアを舞台に書いた小説のテーマは生涯をかけた大恋愛! といっても、その背景には植民地時代の差別や、第二次大戦からアルジェリア独立戦争にかけての激動の日々があって、恋愛だって時代と無縁ではいられません。イスラム世界と西欧世界の双方に引き裂かれた存在として育った少年、ユネス/ジョナスは愛する2つの世界が殺し合いを始めたときに、ただ逡巡するしかなかったのです。

3.おたから蜜姫 (米村圭伍)
痛快時代劇『おんみつ蜜姫』の続編です。今回、蜜姫が巻き込まれたのは「かぐや姫」のお宝探しでしたが、雲を掴むような探索は、やがて、蜜姫の母親の諏訪御前とも縁の深い大久保長安の隠し財産を狙っての暗闘に繋がっていってしまいます。古代「かぐや一族」の謎を解き明かしていく過程は、ダン・ブラウンにもひけをとりません。深い知識と調査を面白い小説に仕立て上げてくれたことに感謝と脱帽です。



2010/1/31