りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/9 イルストラード(ミゲル・シフーコ)

今月のキーワードは、「複数の視点」だったように思えます。1位とした作品のフィリピン作家による「主体と客体の逆転の仕掛け」も、『ゲド戦記』の後半で自ら作り上げた世界を破壊した著者のエネルギーも、次点にあげた作品の「犬の視点」も、物語に深みを与えているだけでなく、「著者の世界観」を感じさせてくれるものでした。

でも、再読した『百年の孤独』と比較してしまうと、どれも小粒に思えてしまうのは仕方ありませんね。『ダルタニャン物語(全11巻)』は、デュマの大作だけあって楽しめました。^^
1.イルストラード(ミゲル・シフーコ)
フィリピン人亡命作家の死体が発見され、執筆中の小説の原稿が消え失せます。事件の真相を解明するために、師の人生の足跡を追う若き教え子の物語は、フィリピン近代史を振り返る中で、彼自身に決断を迫るものとなっていきます。でも、この小説を覆う「仕掛け」は驚くべきものでした。「物語を語ることは、人生の混沌に理解可能な美しさを与えること」なのです。

2.はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか(篠田節子)
篠田さんによる「SF小説」? いえいえ、どのテーマもいつ現実化してもおかしくない物語ばかり。タイトルこそパロディっぽいけど、なかなか本格的な理系作品であり、「作家の想像力」に溢れていますから、決してキワモノではありません。

3.天と地の守り人(上橋菜穂子)
現世「サグ」と別世「ナユグ」が交錯する独特の世界を複数の視点から描いたシリーズの最終巻では、脅威に直面して大切なものを守り抜こうとする人々の生き方が描かれます。深い喪失感を漂わせながらも虚無に陥ることなく、身近な人々への愛情を失わない主人公のキャラが、現実と重なってきます。




2011/9/30