りぼんの読書ノート

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史記武帝紀5(北方謙三)

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16歳で即位した武帝も60歳。既に治世は45年の長きに及んでいます。

シリーズ第5巻では、武帝晩年の悪政の代表例「李陵の族滅」と「司馬遷宮刑」を中心に物語が進行していきます。その背景にあったのは、長年孤高の座にあったが故の自己過信なのか。それとも始皇帝を髣髴とさせる「死への恐れ」だったのでしょうか。

大将軍・衛青を喪った漢軍に対して、頭屠が育てた匈奴の精鋭部隊は圧倒的優位に立ち、李広利の大軍勢を敗走させます。別働隊としてわずか5千人の歩兵を率いて匈奴領内に進軍した李陵は単于の率いる大軍と遭遇し、善戦しながらも捕虜となってしまいます。李陵の裏切りという讒言を信じて彼の一族を滅ぼした武帝は、何を思っていたのか。それを聞いて、匈奴の武将となる決意をした李陵は何を思うのか。

対照的なのが、匈奴への使者として赴きながら捕らえられ、北限の地に流された蘇武。バイカル湖の北方といいますから匈奴の生活圏からも遥かに離れた極北の地。蘇武は「空が割れるほどの寒さ」に耐えながらも生き延び、信節を捧持し続けるのです。

そして李陵を弁護したために宮刑に処せられた司馬遷は、これまでのキャリアを喪って、宦官職である中書令となり、「天道は正しいのか」との悲痛な叫びを内に秘めながら、冷徹に歴史を記し続けます。

武帝の治世も残り10年足らずとなりました。次巻がシリーズ最終巻となるのでしょう。

2011/9