『ダルタニャン物語』や『モンテ・クリスト伯』で有名なデュマには、史上の犯罪や怪事件を描いて人気を博した『歴史実話シリーズ』という作品があるそうです。本書や『メアリー・スチュアート』は、そこからのシングル・カットなのですね。
15世紀末のルネサンス期、小国が乱立したままのイタリアの近辺では、スペインやフランスが強大な領土型国家となりつつありました。ヴァチカンで教皇アレッサンドロ6世として即位したロドリーゴ・ボルジアは、息子チェーザレや娘ルクレツィアを使って、教皇領の拡張に走ります。チェーザレの率いる軍は、イタリア中部の統一を目前にしたかに見えるのですが・・。
マキャべりの『君主論』のモデルとなったチェーザレを描いた小説は多いのですが、はっきり言って本書はおもしろくありません。ロドリーゴ、チェーザレ、ルクレツィアの3人の、毒殺、裏切り、近親相姦など何でもありの「悪のデパート」ぶりが、類型的なのです。しかも、史実にも忠実ではなさそうですし。塩野七生さんの『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』を再読してみたくなりました。
2014/2