りぼんの読書ノート

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「即興詩人」のイタリア(森まゆみ)

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「ロオマに往きしことある人はピアツツア、バルベリイニを知りたるべし」の名調子で始まる森鴎外訳の即興詩人は、、長年に渡って日本人の西洋への憧憬を掻き立ててきた作品です。

著者もまた、画家の安野光雅さんとともに、「いったい私は『即興詩人』を携え、ローマへ続く道をたどった何人目の日本人だったのだろうか」とつぶやきながら、主人公アントニオの路程を追いかけます、目次を追うだけでも、作品の舞台が思い浮かびますね。

1 ローマに生れて(バルベリイニ広場、骸骨寺、ほか)
2 吾友ベルナルドオ(コリゼエオ、曠野、ほか)
3 黒い瞳の歌姫(恋の毒、ローマの謝肉祭、ほか)
4 いざ地中海へ(ツスクルム、トルレ・ヂ・トレ・ポンテ、ほか)
5 ナポリの即興詩人(サン・カルロ劇場、ソレントへ、ほか)
6 流離と再会(チヲリ、ネピ・テルニイ、ほか)

著者は、鴎外が本書を翻訳したのは、「彼自身の女性や親友への思いとの共通点を見出したからであろう」と述べています。目新しい説ではありませんが、「歌姫アヌンチヤタ」と「舞姫エリス」の共通点よりも、「アントニオと親友ベルナルドオとの友情」のほうに重きを置いているとの指摘は新鮮で、説得力を感じます。

アンデルセンの時代から170年後も変わらない遺跡の様子に驚き、イタリアを訪れていない鴎外の描写の正確さに感心し、さらに偶然にも助けられて実り多い旅になっています。やはり、旅を豊かにするのは知識であり、旅を楽しくするのは同行者なのです。安野光雅さんも同じ旅の記録を『絵本・即興詩人』として出版しています。

2014/2