りぼんの読書ノート

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ようこそ、自殺用品専門店へ(ジャン・トゥーレ)

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10代続く老舗の「自殺用品専門店」を舞台にした、フランスのブラック・ユーモア小説です。舞台となるのは、首つりロープ、切腹セット、毒リンゴ、タランチュラ・・死を願う全ての人の希望を叶える様々な「自殺グッズ」を扱うお店。は、されているのです。

面白いのは、この店を経営する家族には皆、自殺した人の名前がついていること。店主で父親のミシマは「三島由紀夫」。長男のフィンセントは「ゴッホ」。長女のマリリンは「モンロー」。次男のアランは「チューリング」。母親のルークリースは難しいのですがシェークスピアの作品から来ているのでしょうか。自殺した人ではなく、イタリア名に変換することになりますが、毒薬使いとして有名な「ルクレツィア・ボルジア」のほうがイメージに合いそう。

誰もが「自殺用品専門店」にふさわしい暗く陰気な雰囲気を持っていたものの、問題児がひとり。末っ子のアランは、物事のいい面しか見ない楽天家だったのです。彼の明るさは、自殺しようと思い込んでいた人を思いとどまらせ、店の商品を「死なないグッズ」に交換し、ついには陰鬱な家族の性格すら変えていってしまうんですね。さて、最後はどうなったのでしょう。

著者は、「誰のなかにも自殺という危機が存在しており、自殺というテーマは、皮肉なことに、誰にも他人事にできないものなのだ」と語っています。とすると、この家族は「インサイドヘッド」のように、ひとりの人間の心の中に潜んでいる多重人格性のことなのかもしれません。いつも明るいアランが勝利をしてくれればよいのですが・・。

2016/4