りぼんの読書ノート

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パン・アメリカン航空と日系二世スチュワーデス(クリスティン.R.ヤノ)

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1991年に破産して消滅したものの、「パン・アメリカン航空」は時代を象徴する存在でした。アメリカの世界制覇の象徴であったと同時に、世界への憧れをかきたてたのが「パンナム」だったのです。日本では「兼高かおる世界の旅」や「アメリカ横断ウルトラクイズ」のスポンサーでもありました。

ハワイ在住の日系人にしてハワイ大学人類学部教授が著した本書は、パンナムの翼に乗って世界の空を翔けめぐった日系スチュワーデスの成功物語ではありません。1955年という早い時期に最初の非白人スチュワーデスとして日系二世を採用し始めたパンナムと、それに応募した娘たちの両者を追った「戦後史」なのです。

パンナムの意図は明確です。世界一周路線を有する唯一の航空会社は、「コスモポリタニズム」と「文化的多様性」の象徴として、異国情緒をかもし出し、控えめで尽くすタイプの女性として日系二世を選んだわけです。その一方で、応募した女性たちの動機はドライです。「世界を見てまわれるじゃない!」

でも彼女たちが得たものは、それだけではなかったようです。当時、スチュワーデスになるということは、人種も階級も飛び越えることだったのでしょう。白人エリート階級の世界を垣間見て、日本もアメリカも相対的に見ることを覚えて、白人の同僚や上司たちにも自己主張ができるようになるなんて、やはり別世界。

もちろん差別待遇も嫌なこともありましたが、「パンナムの日々は花の時代」として、彼女たちが今でも「同窓会」を開いているというのも頷けます。JALに勤務していた深田祐介さんが、もちろんJALを舞台にして同時代の『スチュワーデス物語』を書いていますが、もうワンランク上の世界だったのでしょうね。

しかし、高級感と高コストが支えた「パンナムの栄光時代」にとどめを刺したのは、海外旅行の大衆化と、航空規制緩和政策でした。常にコストを意識する必要がある現代のグローバライゼーションはもっとドライであり、「企業と個人が一緒に夢を見られた良き時代」の再現は難しいのでしょう。

2014/2