りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ソロモンの歌(トニ・モリスン)

イメージ 1

ノーベル文学賞作家トニ・モリスンの第三長編は、はじめて男性を主人公に据えています。成長しても母親の父を飲んでいたと噂されてミルクマンと呼ばれるようになった、黒人男性の成長物語。

物語はミルクマンの前の世代から始まります。医者の娘でメイコンを婿に取った母親ルースは、家庭内の暴君であった父親メイコンから虐げられつつ離れられないのはなぜなのか。しかし両親とも、ミルクマンを支配しようとしていることには変わりありません。さらにメイコンの妹で、自由人として生きるパイロットがミルクマンの人生と深く関わってくるようになります。

黒人ながら上流階級の家に生まれ、甘やかされて育ったミルクマンは、自分勝手な青年になってしまいます。しかし周囲の環境は、彼にそんな中途半端な生き方を許しません。つきあっていた黒人解放運動者を密告された姉はミルクマンを憎み、彼に棄てられたパイロットの孫娘ヘイガーは、ミルクマンを殺そうとまで思い詰めます。そして幼馴染のギターは、白人憎悪に凝り固まって暗殺者となり、ついにはミルクマンの命と金を狙うようになるのです。

そんなミルクマンを一変させたのは、曾祖父が隠したと伝えられる金塊を探しに行った南部への旅でした。村の若者たちと出かけた山猫狩りの体験を通じて、自分が自然の一部であるという感覚を得るのです。金塊は見つからなかったものの、彼はそこで自分のルーツを見つけ出します。村の子供たちに伝わるわらべ歌から、曾祖父ソロモンが奴隷的境遇から自由を得たことを知るのです。そして母親ルースと叔母パイロットが幼かった自分を守るために闘ってくれていたことに気づくのです。

この作品は、白人と男性から二重に虐げられていた黒人女性の視点で読まれるべきなのでしょう。父権制を象徴する父親メイコンに対する、母権制を象徴する叔母パイロットの生き方が、著者の支持を得ていることは明らかです。そしてミルクマンは、悲劇は救えなかったものの、大切なものを守るために自ら闘いの場に臨むのです。途中までは冗長ですが、後半一気に盛り上がる作品でした。

2019/6