りぼんの読書ノート

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未亡人の一年(ジョン・アーヴィング)

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さまざまなエピソードがぎっしり詰まっていて、さまざまな読み方が可能な、いかにもアーヴィングらしい小説です。簡単にレビューを書けるものではないのですが、あえてシンプルに概括してみましょう。

この本は第1に、エディとマリアンの物語として読むことができます。16歳の夏、絵本作家のテッドのもとでアルバイトをした際に、テッドの妻のマリアン(2人の息子を亡くした悲しみから抜け出させずにいる39歳の女性)に恋したエディは、彼女のことを忘れられなくなってしまいます。

夫と娘を残して姿を消したマリアンのことを思い続けること、なんと37年。再会したときには、エディは53歳、マリアンは76歳になっているのです。エディは独身を通して凡庸な作家となり、年上の恋人をテーマとした小説を書き続け、マリアンはカナダで、失った息子たちを忘れられない思いを小説に著わし続けていました。ともあれ、2人の愛は「長き不在」のあとで成就するのです。作家の執念、恐るべし!

第2には、マリアンとテッドの娘であるルースの物語でもあります。4歳の夏に、母親マリアンとエディの情事を目撃したルースは、母親に棄てられた衝撃と、次々と不倫を繰り返す父親に育てられた影響から、男女関係に信をおけないでいました。世界的な人気作家となり、編集者のアランの真摯な求愛を受けても結婚に踏み切れません。結局ルースは結婚、出産、夫との死別、再婚を経験することになるのですが、彼女こそ母親の「長き不在」の影響を最も大きく受けた人物です。

「未亡人の1年」とは、結婚前にルースが著わした小説のタイトルですが、彼女の生き方を象徴するような意味合いを持っています。

多彩な脇役たちの、エピソードまでしっかり書き込んでいるところが「アーヴィング流」。ルースの父親のテッドが書いた絵本、ルースと対照的な親友ハナ、ルースの2人の夫たちのアランとハリー。エディの父親でエクスター校の退屈な英語教師ミッチと母親のドット。既に亡くなっていたマリアンの息子たち。テッドと不倫関係を結んだ女性たち・・。彼らの人生もまた、本書の重要な一部です。

ともあれアーヴィングの作品を読むと、「物語の力」を信じる気持ちにさせられるのです。

2011/5再読