りぼんの読書ノート

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秘録島原の乱(加藤廣)

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2018年4月に87歳で亡くなられた著者の遺作です。本書が「秘録」とされるのは、天草四郎豊臣秀頼が脱出先の九州で生した子であり、島原の乱の目的が幕府転覆であったという壮大な構想に基づく作品であるからです。どちらも著者オリジナルの発想ではありませんが、架空の女剣士を登場させたことで、物語の流れがスムーズになっているようです。

炎上する大阪城から秀頼を脱出させたのは、キリシタンであった明石掃部。九州への行路を開いたのは真田忍軍。しかし肥後の加藤清正はすでに亡く、薩摩の島津義弘も代替わりしており、秀頼は隠棲を余儀なくされてしまいます。しかし秀頼が真田忍軍の女剣士・小笛を見初めて側室としたことで、物語の糸は繋がっていくのです。

やがて秀頼の遺児が、キリシタンや農民一揆と結びついて起こした島原の乱には、三代将軍・徳川家光を九州に引っ張り出して、その隙に奥州伊達氏に江戸を攻めさせようという遠謀がありました。寛永御前試合での仕掛けなどもあったものの、惜しくも不発に終わります。頼みのポルトガル船もオランダ船に封じられてしまい、島原の乱は終息するのですが、著者はそこで最後の大仕掛けを繰り出します。ネタバレは書けませんが、天草四郎の正体は三姉妹であったことだけ記しておきましょう。

本書は小説新潮の2018年4月号まで断続的に連載された作品です。没する直前まで精力的に執筆されていた著者のご冥福をお祈りいたします。

2019/6