りぼんの読書ノート

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縁切寺お助け帖(田牧大和)

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斬新な視点で時代小説を書き続けている著者は、主人公や語り手自身が謎や闇を抱えていることが多いのですが、本書もそんな作品です。 

 

千姫と秀頼の娘で、家康の孫でもある天秀尼が住持を勤めた鎌倉の東慶寺は、幕府公認の縁切寺でしたが、住持が不在となった期間もあって力を失っていたそうです。東慶寺が再び縁切寺としての座を不動のものとしたのは、11代将軍・家斉の時代に水戸藩の姫・法秀尼が院代となってからのことでした。本書は、清純派美女ながら優れた戦略家でもある法秀尼と、彼女を補佐する記憶力抜群の桂泉尼や理論家の秋山尼、そして警固を担う女剣士・茜らの活躍を描いた物語。語り手は茜です。 

 

人気歌舞伎役者の妻が縁切りを求めてきた理由は、単なる夫の浮気だけではなさそうです。夫とは相思相愛であるはずの大店の後妻が駆け込んできた背景には、悪党たちの陰謀がありました。そして夫からDVを受けた女性が2人続けてやってきた事件は、東慶寺と法秀尼自身に関わっていくことになるのです。そして茜の過去も明らかになっていきます。 

 

東慶寺の物語と言うと、「駆込み女と駆出し男」のタイトルで映画化された、井上ひさし先生の『東慶寺花だより』で、既にさまざまな駆け込みパターンが描かれています。しかし本書には奥の深いミステリ要素も含まれていて、著者独特の世界を楽しむことができる作品です。最後は「女の敵は女」となるものの、女性同士の繋がりの深さも印象に残ります。それにしても、桂泉尼、秋山尼、茜のトリオに徹底的にやりこめられる男性の立場には立ちたくないものです。 

 

2020/6