りぼんの読書ノート

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ダンバー(エドワード・セント・オービン)

世界のベストセラー作家が「シェイクスピアの名作を語りなおすシリーズ」の第2弾は、『リア王』でした。。権勢欲の深い長女と次女に裏切られた老王が狂気を帯びて荒野をさすらい、ようやく末娘の愛情に気付くものの悲劇に終わる物語。シェイクスピア悲劇の中でも人気の高い『リア王』をモチーフとした作品は、黒澤明「乱」など数多く制作されていますが、本書はかなり原作に忠実に書かれています。

 

現代のリア王となるのは、テレビ局や新聞社を傘下に収めるメディア王のダンバー。彼自身が悪事を重ねてのし上がってきた人物なのですが、会社乗っ取りを狙う長女アビゲイルと次女メガンによってイギリスの療養所に入れられ、クスリを盛られて意識混濁状態に陥ってしまいます。かつて遺産相続を拒否して遠ざけられていた末娘フロレンスだけが、父の身を案じて捜索に乗り出すのですが、物語はやはり悲劇的な結末を迎えるのでした。著者は本書について「愛を再発見しながらも愛が消えてしまうがゆえに悲劇なのだ」と語っています。「なにもかもが無慈悲で悲惨なら悲劇にはならない」のです。

 

イギリスの貴族の末裔として生まれ、強烈で横暴な父親から虐待を受けて育ったという著者は、かねてから『リア王』に思い入れが深く、本書の執筆者に自ら名乗り出たとのこと。ダンバーはもちろん、3人の娘たちの人物造形もしっかりと書き込まれています。ダンバーとともに療養所を脱出して湖水地方の荒野をさまよう、アルコール依存症患者のピーターも、道化役としていい味を出しています。過去のイギリスの喜劇役者からつけた名前であり、「乱」で道化を演じたピーターとは関係ないそうですが。

 

2023/2