りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

砂嵐に星屑(一穂ミチ)

2021年に『スモールワールズ』で直木賞候補作家となった著者の作品を読んでみました。本書は大阪のテレビ局を舞台にして、世代も性別も職種もバラバラな4人の悩みを暖かく包みこんだ連作短編集です。

 

社内不倫の前科で腫物扱いされている40代独身女性アナウンサーの邑子は、個性的な新人アナウンサーの雪乃からの信頼を得て自信を取り戻したようです。出世した同期の市岡に差をつけられ娘とも冷戦状態にある50代の報道デスクの中島は、市岡から早期退職の決意を打ち明けられて仕事への誇りを取り戻しました。

 

ゲイの由郎を愛してしまって身動き取れない20代タイムキーパーの結花は、彼にストレートな思いを打ち明けたことで孤独感から抜け出すことができました。向上心もなく非正規の現状にぬるく絶望している30代ADの晴一は、若手お笑い芸人・広道の過去を知ったことで少しだけやる気が出て来たようです。人を癒すものは人であるというのが、著者の思いなのでしょうか。

 

平成の次の元号が未発表であり、大阪北部地震や台風21号の被害も書き込まれているので、この物語は2018年の出来事です。当時大阪に住んでいたので、さまざまに影響を受けたことを懐かしく思い出しながら読みました。梅田のグランフロントや阪急百貨店、福島の阪神ホテルや天満宮、西中島や堂島川という地名、さらには「かんさいでんきほーあんきょーかい」という間延びしたCMのことも。

 

2023/2