りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ステーション・イレブン(エミリー・セントジョン・マンデル)

イメージ 1

「文明崩壊後の世界を描くSFサスペンス」というと、殺伐あるいは荒涼とした終末論的世界をイメージしてしまいますが、本書は「人間として生きること」の意味を問い詰めた作品でした。アーサー・C・クラーク賞の受賞にとどまらず、全米図書賞の最終候補作となったことも頷けます。

トロントの劇場で「リア王」上演中に主演俳優アーサーが死亡したのが、パンデミックの開幕だったようです。元パパラッチの救命士ジーヴァンの救助も虚しく、アーサーは死亡。そして2週間後には、人類の99%が死滅して、文明はあっけなく崩壊。

その日に子役として舞台に立っていたキルステンは、20年後、シェイクスピア劇を上演する旅回りの一座の女優になっていました。彼女が大切にしているのは、アーサーに貰った限定出版のコミック「ステーション・イレブン」。宇宙人に征服された地球を離れて宇宙を彷徨う主人公たちの、孤独と郷愁に満ちた物語が、彼女の心の支えになっているのです。

アーサーの最初の妻であったミランダは、何を思いながら「ステーション・イレブン」を描いていたのでしょう。そして、そのコミックを受け継いだもう一人の少年は、20年後どこでどうしているのでしょうか。さらに、閉鎖された空港で生きのびつつ文明の遺物の断片を「博物館」として保存している、アーサーの親友クラークは、彼らと出会うことがあるのでしょうか。また、遠く南へと向かったジーヴァンは・・。

どうやら、キルステンが腕に入れている「生きていられるだけでは不充分」という「スタートレック」のセリフが、本書を読み解く鍵のようです。なぜ本書は、俳優アーサーとゆかりを持った人たちの人間模様となっているのか。なぜ旅の劇団であり、シェイクスピアなのか。なぜ「ステーション・イレブン」なのか。サルトルの「地獄とは他人のことだ」との言葉は一面では真実なのでしょうが、本書にはそれを否定する力も含まれているのです。

2015/9