りぼんの読書ノート

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売国(真山仁)

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ハゲタカの著者が、東京地検特捜部をテーマとして扱った小説です。著者が本書の構想を練った2012年当時、証拠改ざん事件が続けて明るみに出たことによって、かつて「最強の捜査機関」と呼ばれた特捜部の権威は地に堕ちていたとのこと。しかし本書には、「巨悪を追う存在は必要」との著者の信念が込められているようです。

著者が「巨悪」としたものは、日本の戦後史の闇が背景とする、とんでもない黒幕でした。本書は、何が国益を損なわせる悪事であり、誰が売国奴なのかを最後までベールに包んだ、スケールの大きな陰謀小説になっています。

一方で「国益」の象徴とされたのが、糸川博士の研究に端を発する日本のロケット研究です。希望を持って宇宙センターに飛び込んできた若い女性研究者の前に、現実の壁が立ちふさがっていくのです。世界最先端の制御技術を有するという、日本の固体燃料ロケット研究は、どうなってしまうのでしょうか。その背景には、宇宙開発が金食い虫であるという議論のみならず、軍用ミサイルに転用可能な技術であるという、複雑な問題があるようです。

「巨悪を裁くこと」と「夢や希望を守ること」は、必ずしも両立するわけではありません。しかし著者が言うように、「夢が破れた時に人はどうすればいいのか」という地点まで踏み込んでいくことは、小説の醍醐味といえるでしょう。本書は、あくまでもポジティブな精神を描いた作品なのです。

2015/9