りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

闇祓(辻村深月)

闇を振りまく人がいます。その人が現れたことで、その人が言い始めたことで、その人が接近してきたことで、周囲の人々の心を暗く染め上げてしまうタイプの人。著者はこれを「闇ハラスメント」と名付け、闇を振りまく疑似家族を作り出しました。その家族の構成員は、自身が亡くなる前に後継者を見つけ出して元の人格を奪い、同じ役割を努めさせていくようです。そしてその対極には「闇家族」と対峙し続ける「闇祓」という人々もいるのです。

 

クラスに馴染めない不思議な転校生の白石に接近された女子高生の澪は、憧れの先輩に助けを求めますが、その先輩こそが闇家族の長男でした。人気の団地に引っ越してきた家族の妻は、地域のボランティアサークルでマウンティングするリーダー格の女性に辟易しますが、彼女も犠牲者候補にすぎなかったようです。その影には闇家族の母親がいたのです。さらに、職場を混乱させて人々の心を歪めていったのは闇家族の父親であり、小学校のクラスに陰湿なイジメを持ち込んだのは闇家族の次男だったのです。

 

闇家族によって植え付けられ、増殖され、暴走させられた人々の悪意は、取り返しのつかない事件を起こし続けます。闇家族の構成員を元の人格に引き戻し、闇家族を解体するすべはあるのでしょうか。澪は、闇家族に連れ去られた親友を見つけ出すべく、「闇祓」であることを明らかにした白石に同行するのですが・・。

 

「闇祓」というタイトルは、「ハリー・ポッター」シリーズに登場する「闇祓い(オーラ―)」を連想させますが、本書に魔術は登場しません。「闇家族」を生み出した根源は謎に包まれているものの、闇の闘いの手段は極めて人間的な「言葉と行動」のみなのです。それは、私たちの周囲に闇を振りまく人々が実在していることを意味しています。組織的に闇と対峙してくれる「闇祓」など存在しない現実世界において、闇落ちしないために心がけるべきことは何なのか。そんなことを考えさせてくれる作品でした。

 

2023/2