りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

魚影の群れ(吉村昭)

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緒方拳と夏目雅子が父娘を演じた同名の映画は、学生時代に名画座で見ました。父娘の葛藤もさることながら、厳寒の津軽海峡でマグロの一本釣りに生死を賭ける漁師の生活の孤独な厳しさが強く印象に残りました。大間のマグロがとても高価と知ったのは後のことですが、高いはずです。

「海の鼠」
戦後間もなく、愛媛県沖の小島に異常発生した鼠と人間との壮絶な闘いを描いた実話をもとにした作品です。推定60万匹から120万匹もの鼠の大群に対してはネズミ捕りも殺鼠剤も天敵の導入も効果がなく、作物を食い荒らされて飢えていく人々が無気力になっていく様子が不気味です。

「蝸牛」
農家で密かに飼育されているという食用蝸牛の調査に乗り出した役場の職員が、習慣性があるらしい謎めいたカタツムリの味に魅せられていきます。ちょっと不気味です。

「鵜」
婿をとって跡を継いでくれることを期待していた最愛の娘に離反された老鵜匠が、心の動揺を見透かされたのか、長年飼っていた鵜にも逃げられてしまいます。家族問題から鵜匠としての気質を失っていく主人公に悲痛なものを感じます。

「魚影の群れ」
漁の最中に大怪我をした娘の婚約者を見捨てるかのようにマグロを追う漁師が、娘と婚約者から去られてしまいます。数年後、和歌山で修行を積んだ婚約者は大間に戻ってきて自分の船で漁をはじめるのですが・・。

厳しい自然と対峙する人間の強さは、家族の支えがあって成り立つのでしょう。心の支えを失っては、人間はもろいものなのかもしれません。

2012/1