りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

居心地の悪い部屋(岸本佐知子/編訳)

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「ダークサイドのアンテナ」を持つ翻訳者、岸本佐知子さんが編集したアンソロジーには、読者に不思議な不安感を起こさせる作品が揃っています。「居心地の悪い部屋」にようこそ。

「ヘベはジャリを殺す(ブライアン・エヴンソン)」 親友どうしの2人が穏やかに会話を交わしているのですが、ここで起きているのは、互いに納得しての殺人なのです。

「チャメトラ(ルイス・アルベルト・ウレア)」 戦場で頭を狙撃された友人を手当てする男が見たものは、傷口から溢れ出て実体化していく友人の記憶でした。ここまで記憶を失ってしまってはもう助かりません。

「あざ(アンナ・カヴァン)」 旅先で訪問した不気味な城に捉えられている女性は、寄宿学校時代から不運な雰囲気を漂わせていた友人なのでしょうか。両者の共通点はあざだけなのですが・・。

「来訪者(ジュディ・バドニッツ)」 独り暮らしの娘を訪ねて来る両親は道に迷ったようで、何度も電話をかけてくるのですが、次第に不吉な内容になっていきます。両親はどこにたどり着いてしまったのでしょう。

「どう眠った?(ポール・グレノン)」 2人の男が「眠りの感覚」を建築物になぞらえる会話を続けて、たどりついた最後の夢は木と紙でできた日本の家。地震や火事には耐えられないのですが、何が起こるのでしょう。

「父、まばたきもせず(ブライアン・エヴンソン)」 死んだ娘を埋める父親。しかし彼の回りでは、何事もなかったかのように普通の日常生活が営まれていきます。

「分身(リッキー・デュコーネイ)」 就寝中に取れてしまった両足から脚が伸びてきて、もうひとりの彼女ができていきます。

「潜水夫(ルイス・ロビンソン)」 自家用ヨットの修理のために雇った図々しいダイバーが、妻には異常に馴れ馴れしくします。不快感が徐々に恐怖へと移行していくのですが、結末は意外なものでした。

「やあ!やってるかい!(ジョイス・キャロル・オーツ)」 小説全体がひとつの長い文章で綴られた実験小説ですが、人に不快感を与えるマッチョな男性ジョガーは加害者ではなく、文章の主語が「あなた」という点に驚かされます。

「ささやき(レイ・ヴクサヴィッチ)」 自分の鼾を気にして睡眠中の物音を録音した男が聴いたのは、不思議な男女の声でした。

「ケーキ(ステイシー・レヴィーン)」 丸々になるためにケーキを並べるための棚を作り、ケーキを集めて食べようとするのですが、ずっと家をのぞきこんでいる犬と猫が邪魔に思えてきます。

「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ(ケン・カルファス)」 架空の野球珍記録のエピソードは、W・P・キンセラアイオワ野球連盟』を思わせます。洪水の中で40日間2000イニング続いた大熱戦です。

2012/6