りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/1 おまえさん(宮部みゆき)

先月の『回廊にて』に続いて、辻邦生さんの作品を2冊再読(プラス1冊初読)。高校時代に読んだ時には大きな感動を得たものの、芸術至上主義と思えてしまい少々鼻についたのですが、今になって読み返してみるとやはり優れた作品です。もう少し、せめて名作『背教者ユリアヌス』くらいまでは読み進めてみましょう。

1位にあげた宮部さんの新作はやはり高水準です。期待は裏切られません。
1.おまえさん(宮部みゆき)
『ぼんくら』と『日暮らし』に続く、本所深川のぼんくら同心の井筒平四郎と甥の天才少年・弓之助を主人公にしたシリーズ第3作は、20年前の出来事に端を発した事件の解決もさることながら、多くの人たちの人物像と心の動きを深く描き分けた作品といえるでしょう。いつものことながら宮部さんの小説の水準は高いですね。

2.これはペンです(円城塔)
文章の自動生成装置を駆使して自由自在に文章を生み出す叔父からの手紙の「読み手」である姪が叔父の存在を追い求める思考過程は、書くことの原点に迫る試みなのでしょう。書くことの本質は「不滅」ではなく「変転」だと気づいた姪が、「読み手」から「書き手」への変貌を自覚するに至る不思議な物語は、著者が自分自身に向けて送ったメッセージなのかもしれません。

3.魚影の群れ(吉村昭)
漁の最中に大怪我をした娘の婚約者を見捨ててマグロを追った結果、娘からも去られてしまった漁師の悲哀を描いた表題作は以前、緒方拳と夏目雅子の主演で映画化されています。厳しい自然と対峙する人間の強さは、家族の支えがあって成り立つのでしょう。簡潔で力強い文体で書かれた4つの短編はどれも秀作です。


2012/2/1