りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/4 冬の眠り(アン・マイクルズ)

カナダの詩人であるアン・マイクルズさんの作品は、詩情に溢れた美しい文章で深いテーマを歌い上げてくれます。そこにあるのは、深い哀しみに沈んだ者にも再び浮上の機会は訪れるという希望のようです。

南仏プロヴァンス関係の本をたくさん読んだのは、旅行を計画しているから。^^
1.冬の眠り(アン・マイクルズ)
かけがえのないものを失った者への癒やしや贖罪は、欺瞞にすぎないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。人間ができることは偽の慰めだけれど、言い方を変えれば、愛で作られたものは全て本物なんですね。たとえ墓に飾られた造花でも・・。移設されたアブ・シンベル神殿、移植されたトロントの草花、再建されたワルシャワを結んで、深いテーマを丁寧に紡ぎあげた詩情あふれる小説です。

2.道化師の蝶(円城塔)
稀代の多言語作家・友幸友幸は手芸を読み解く力を持ち、作家を追うエージェントは言葉の不思議さについて語り、雇い主のエイブラムス氏はフェズ刺繍で紡がれた銀色の虫取り網で着想を捉え、捉えられた蝶は人の頭の中に入り込んで着想の卵を産む・・。「言葉」を使って文章を書くことにこだわった作品は不思議な魅力に満ちています。芥川賞受賞作です。

3.コラプティオ(真山仁)
現在の日本に最も不足しているものは、首相のリーダーシップと原発政策でしょう。その2つの問題をテーマにして「処方箋」に迫った作品です。復興を進めて国民に希望をもたらし、圧倒的な支持を受ける総理が打ち出したのは、「世界一安全な原発の輸出」による富国政策なのですが、これは独裁への道なのか。首相を支える内閣調査官と、首相を追う新聞記者という2人の視点から綴られる物語は臨場感に溢れています。



2012/4/29