りぼんの読書ノート

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豊饒の海2 奔馬(三島由紀夫)

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第1部豊饒の海1 春の雪で、美青年・松枝清顕が「禁断の恋」に燃え尽きてから19年後、かつての清顕の親友で今は大阪控訴院の判事となっていた本多繁邦は、清顕と同じ脇の下に3つの黒子を持つ青年・飯沼勲と出会います。

その青年・飯沼勲は、松枝家の書生だった時代に清顕の教育係を勤めた飯沼茂之の息子でした。予言どおりの滝の下での再会、夢日記と符合する出来事から、清顕の輪廻転生との確信を深める本多に、青年は愛読書の「神風連史話」を手渡します。

純粋な青年・飯沼勲は、貧困に喘ぐ国民を顧みず腐敗の度を増す政財界を正すべく、明治の世に散った神風連に範を求めて要人へのテロを使命と思い込んでいたのです。時代は5.15事件の直後であり、まさに血盟団などの右翼テロが横行した頃です。

しかし飯沼勲の決起計画は未然に終わります。彼は、彼の周囲の全ての年長者に裏切られるのです。それは、勲を諌めようとした本多であり、一時は同調しながらも計画の無謀さを知って中止を求めた青年将校であり、息子を救おうとして術策を弄した父親であり、勲を愛していた年上の女性・槙子であり、勲を謁見した際に好意を持ったものの自分の名前をビラに見い出した途端に事件の揉み消しにまわった桐院宮たち。

本書においては、年齢や経験は純粋さを失わせる要因でしかないようです。そこには、ボディビルに励んで肉体美を保ち、市ヶ谷駐屯地で自衛隊に決起を促して自決に至った著者の晩年の思想が色濃く出ているように思えます。

しかし本書は、思想を越えた美しさに満ちているのです。全てを幻と貶められた勲が単身で志を果たし、日の出前の海岸で切腹するラストはあまりにも美しすぎます。まだ暗い海岸で「日輪は瞼の裏に赫奕と昇った」とする最終行には、「夢こそが現実に先行する」との著者の思いが込められているのですが。

第3部ではなんと、タイの王女への生まれ変わりが起こるとのこと。気になりますが、濃厚な作品ですので、やはりゆっくりと読み進めることにします、

2012/5