りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ミュンヘン(マイケル・バー=ゾウハー)

イメージ 1

スピルバーグの映画「ミュンヘン」の原作ですが、本書の内容は、オリンピックさなかのミュンヘンイスラエル選手団11人を惨殺したテロと、モサドによるその後の報復暗殺だけではありません。パレスチナ問題が発生したイスラエル建国時点から現代に至る、戦争とテロと殺戮と報復の歴史の中に、これらの事件も位置づけられているのです。

多くの人物が関わり、多くの事象が絡み合う歴史を描く縦軸として、著者はひとつの家系を選び出しました。「第1部・父」の主人公ハサン・サラメは、イスラエル建国直後のパレスチナ・ゲリラを組織した最高宗教指導者家族フサイニーの右腕となって戦闘部隊を率いた人物。

「第2部・子」の主人公アリ・ハサン・サラメは、多くのハイジャックや、ミュンヘン・テロを計画した「黒い九月」のリーダーです。PLO議長のアラファトからも息子のように愛され、ミス・ユニバースのレバノン女性ジョルジーナ・リザークを妻として「レッド・プリンス」と呼ばれ、モサドの「神の怒り」作戦の最終標的となった人物。彼とモサドの緊張感に満ちた諜報戦こそが、本書の白眉。

アリとジョルジーナの息子である3代目ハサン・サラメが、「第3部・孫」の主人公。意外なことに彼は、平和を愛する青年へと成長しています。残念ながら彼の信条が実を結ぶ気配はなく、今年イスラエル地上軍がガザに進攻したことは、世界中が憂慮している出来事です。

平和のためには、誰が何を代償として差し出す必要があるのでしょうか。プリミティブな民族主義が未だに横行する現代において、問われているのは私たちです。

2014/9