りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

見えない日本の紳士たち(グレアム・グリーン)

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年代もテーマもさまざまな16編を収めた日本オリジナル短編集です。著者の作風の広さを味わうには良いのでしょうが、さすがに少々散漫な感じを受けてしまいます。

「ご主人を拝借」
南仏のリゾート地を訪れた新婚夫婦が2人組の色男に目を付けられてしまいます。しまし彼らに狙われたのは新妻のほうではありませんでした。

「ビューティ」
派手な年増女に溺愛されているお上品なペキニーズが、飼い主に隠れたところで犬の本性を現わします。意外と爽快かも。

「悔恨の三断章」
酔っぱらって口にした一言を後悔するのは、現代の漫才師だけではありませんね。

「旅行カバン」
大きな旅行カバンに死体が詰まっていると言っても、誰も信用しないのです。さて真実は?

「過去からの声」
再婚した夫婦を襲うのは、捨てられた元妻からの数々のメッセージ。夫の行動を周到に予測した不気味な置手紙には、読者もビビらされてしまいます。

「八月は安上がり」
安上がりなツアーで安上がりな避暑地に出かけ、安上がりの情事にふけっても、残るのは虚しさだけかもしれません。お金をかければいいというものではありませんけどね。

「ショッキングな事故」
痛ましいけれど滑稽にしか思えない事故で父親を亡くした息子にとって、父親の思い出がトラウマになってしまうなんて、本人にしかわからない悲劇なのでしょう。

'''「見えない日本の紳士たち」
作家デビューを控えた若い娘と婚約者が会話するレストランでは、日本の紳士たちが黙々と食事をしていました。外国人の集団が近くにいても人目を意識しないですむというのは、現代では不可能かもしれません。

「考えるとぞっとする」
母親が目を離したすきに、早熟な赤ん坊は客とどんな会話をしていたのでしょう。著者は生後1年未満の出来事を覚えていたそうですが・・。

「医師クロンビー」
風変わりな学説を執拗に唱え続けて失職した医師の物語は、著者が故郷で見聞きした実話なのかもしれません。でも、幼いころに聞くとトラウマになりそうな学説です。

「諸悪の根源」
ドイツの小さな村で繰り広げられるドタバタ喜劇ですが、冷静に読むと悲劇ですね。

「慎み深いふたり」
パリの公園で出会った中年男女のぎこちない会話の理由は、言葉の壁だけなのでしょうか。

「祝福」
否定すべきことにも祝福なら与えられるのかもしれません。しかし兵器や戦争にまで祝福を与えることは倫理的にどうなのでしょう。

「戦う教会」
革命前夜のケニアで、浮世離れした布教のために戦う神父の姿は滑稽にしか思えませんよね。前作とともに、カトリックに対する著者の複雑な思いが感じられる作品です。

「拝啓ファルケンハイム博士」
著者は10代の頃に、精神分析医にかかったり、夢日記をつけていたことがあったそうです。そんなことを念頭に置いて読むと楽しめます。

「庭の下」
余命を宣告された男が少年時代に住んでいた屋敷を再訪するのですが、彼はそこでとんでもない冒険をした記憶があったのです。それは記憶違いなのか、全くの虚構なのか、それとも・・。かなり変わった作品です。

2019/1