りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ゼロ(マルク・エルスベルグ)

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ネットショッピングをすると類似商品が大量に「お勧め」されてくること。SNSへの投稿者の目的は「いいね」の賛同を得るだけであること。既に周知の事実ですが、著者はその先になんとも不気味な近未来図を描きだしました。

急激に会員数を伸ばしている巨大ネット企業の成長の秘密は、個人情報とビッグデータを照らし合わせて、ひとりひとりの会員に「お勧め」の行動を指示するシステム。それに従えばポイントが加算されるだけではなく、リアル世界での成果も上がるのです。AIに自らデータを提供し、行動を指示され、それに従うようになると、次に来るのは意識操作なのでしょうか。

アメリカ大統領を無害なドローンで襲撃させた映像をネットに曝したのは、巨大ネット企業を告発する「ゼロ」と名乗る匿名グループでした。直ちに捜査を開始したFBIやNSAを嘲笑うかのように、彼らはネット社会に警鐘を鳴らし続けます。その一方で、独自に「ゼロ」の調査を開始したジャーナリストのシンシアは、いつの間にか巨大ネット企業に支配されている社会の実態に気づいて愕然とします。しかも彼女の娘や友人たちまでもが、その信奉者になっていたのです。

やがてシンシアと「ゼロ」の間に共感が生まれるのですが、捜査当局や巨大ネット企業はそれを放置してはくれません。果たして4者の追跡劇は、どのような結末へと至るのでしょう。

ストーリーそのものは比較的平板で、捜査当局と巨大ネット企業の関係もイマイチ不鮮明でしたが、本書の価値は不気味な未来予想図をリアリティ豊かに描きだした点にあるのでしょう。巨大資本や権力者がネット情報を濫用し始めた時、「ビッグブラザー」など児戯にしか思えないほどの管理社会が到来するのかもしれません。管理されていることすら意識できないほどに。

2019/1