りぼんの読書ノート

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天子蒙塵 第4巻 (浅田次郎)

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蒼穹の昴シリーズ」の第5部にあたる「天子蒙塵」が第4巻で完結。しかし、天子たる資格を有しながら中華の地から逃亡した2人の貴人の運命を、浅田調で朗々と歌い上げた作品は、なんとも微妙な地点に着地した感があります。

清朝ラストエンペラー溥儀は、満州国の傀儡皇帝に復位しようとしています。一方で、阿片を絶って欧州から帰国した張学良は、蒋介石の傘下に入って旧奉天軍を再び指揮しようとしています。張学良と周恩来の出会いも描かれますが、物語としてはこれが全て。天命を有する天子のみが持てる龍玉は、かつて西太后に仕えた探花・王逸から、張作霖の配下であった李春雷のもとに渡っているのでしょうか。やがて龍玉が毛沢東の手に渡る物語も、描かれることになるのかもしれません。

満州国に関わったさまざまな人物たちの物語も、中途半端感が否めません。柳条湖事件を食い止めようとした志津大尉は、石原莞爾を再登用しようとする永田鉄山の運命に不安を覚えます。酒井大尉はなんと駆け落ち女性と連れ立って、シベリア鉄道で欧州への道行へ。前巻で登場した2人の少年、田宮修と木築正太の人生は、それぞれ甘粕正彦や馬占山の運命と関わっていくことになるのでしょうか。

これでは「第6部」を描かなくてはなりませんね。しかし史実の存在が巨大となり、急激に叙情性が失われていく日中戦争の時代の中で、浅田調を貫くのは難しいようにも思えます。「蒼穹の昴シリーズ」は、李春雷と李春雲の兄弟の物語として読み終えることにしましょうか。

2019/1