りぼんの読書ノート

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天子蒙塵 第3巻(浅田次郎)

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蒼穹の昴シリーズ」の第5部にあたる「天子蒙塵」の第3巻です。ともに天子たる資格を有しながら、中華の地から逃亡した2人の貴人の運命は、ここに来て大きく分かれていきます。

清朝滅亡後日本租界に匿われていた溥儀は、日本軍が独立させた満州国の皇帝の座に就くことになります。もちろん実権など何もなく、傀儡にすぎないことは誰の眼にも明らかなのですが、本人だけはそれを理解していないようです。清朝時代からの忠臣・梁文秀や、張作霖軍閥のナンバー2であった張景恵は、何を思って満州国に仕えているのでしょう。

一方で、父・張作霖が遺した軍閥を見捨てて欧州へと逃避した張学良は、ついに自らの天命を理解して中国への帰国を決意。対称的なのは2人の妻も同様です。溥儀の妻・婉容が阿片の世界に逃避したのに対し、張学良の聡明な妻・趙一荻は、夫を支え続けるのです。

日中戦争の前夜を描く本巻では、さまざまな人物が登場してきます。満州国の宣伝教化策として映画製作を目論む甘粕正彦清朝の王女として生まれながら日本軍の工作員となった男装の麗人川島芳子。突然に欧州に現れた吉田茂。夢を追って満州国へと渡り張作霖の未亡人・寿玉梅の世話になった2人の少年、田宮修と木築正太の運命は大きく分かれていきそうです。その一方で、柳条湖事件を食い止めようとした志津大尉や酒井大尉は退場していくのでしょうか。

そして張作霖の配下であった李春雷のもとに、かつての探花・王逸が現れます。李鴻章軍を率いた後、袁世凱のもとを去って湖南に隠棲していた王逸は、蒼穹の昴のラストで毛沢東少年と出会っていたのですが、龍玉の行方が続編と繋がっていないことが気になっていました。著者はこのあたりをどう繕って、壮大な歴史巨編を終息に向かわせていくのでしょう。物語は佳境に入って行きます。

2018/9