りぼんの読書ノート

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満州国演義1 風の払暁(船戸与一)

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満州国の誕生から滅亡まで(?)を描く船戸さん渾身の大河小説は、全8巻の構想とのこと。今のところ、第5巻まで出版されています。第1巻で描かれるのは、張作霖爆殺事件の前後の1928年から1929年にかけて。

主人公となるのは、麻布の名家に生まれながら、それぞれ異なる生き方を選んだ敷島4兄弟。外務省に入省し、奉天日本領事館の参事館を務めている太郎。日本を捨てて、満州蒙古の地で無頼の馬賊を率いている次郎。陸軍に入り、愛国心ゆえに関東軍の策謀に関わってゆく三郎。早稲田の学生でありながら、無政府主義に傾倒していく四郎。

4兄弟の満州国の建国に対するスタンスも、自ずと異なっています。太郎は軍部の強引さを嫌いながらも恐喝に屈し、次郎は軍への協力を求められながらも徹底的に無視し、三郎は軍の一員として自ら積極的に関わっていきます。ただひとり四郎は、日本国内の貧困農民を満州に移住させて、国内の矛盾を転化する政策に疑問を感じているのですが、その全員に特務の手が伸びてきます。

どうやらこれはカラマーゾフの兄弟を意識しているような節があります。アリョーシャはもちろん四郎であり、ドミートリイとイヴァンのキャラクターは他の3人に振り分けられているようです。そして、4兄弟に執拗につきまとう特務機関員の間垣こそがスメルジャコフなのでしょう。プロローグの会津落城の場面で、会津女性を陵辱した長州藩士は4兄弟の祖父でしょうし、間垣は、そこで長州藩士が孕ませた私生児に連なる者と思えますから。(全くの推定です)

張作霖爆殺をきっかけに開戦に持ち込み、一気に満州の植民地化を目論んだ関東軍の陰謀は、張学良の冷静な対応によって一旦は挫折させられますが、まだまだ中国は揺れ動いています。日本サイドでも「満蒙領有」と「五族協和」の意見が拮抗して渦巻いているのですが、明治維新以来の対立軸であった「尊皇攘夷」と「文明開化」が、日清・日露戦争を経た昭和となっても解消されず、満州をめぐる矛盾となっていったとの史観には頷かされます。もちろん次巻以降も読みますので、ちゃんと完結させてくださいね。^^

2010/7