りぼんの読書ノート

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マルドゥック・アノニマス 6(冲方丁)

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シリーズも佳境に入ってきました。巨大都市を支配しようとするハンターに囚われたウフコックを救出するために、バロットが登場したのが第3巻のラストでしたが、物語はなかなか先に進まなかったのです。というのも、救出作戦の進行よりも、それまでの過程を描く時系列的には過去の物語のほうに重点が置かれていたから。

 

しかしそれには重要な意味がありました。ウフコックが囚われていた間にバロットはじっくりと成長を遂げていたんですね。法学を学んでロー・ウォーリアーとしてのキャリアを積み、声帯再生手術を受けて声を取り戻し、彼女を保護するのベルや彼女を姉と慕うアビーとの疑似家族的な生活の中で人間らしい感情を取り戻し、物事の本質を見抜く力を身に着けていったのですから。その力はハンターとの交渉に生かされていくのでしょう。

 

一方のハンターも数多くの試練を乗り越えてきました。感覚の共有というギフトによって裏社会を糾合していったハンターは、シティを支配している謎のグループ・シザーズの一員であることが示唆されていたのですが、彼は自分でも認識していなかった殻を破ろうとしています。彼はシザーズの支配を脱して、ブラックキングことノーマ・オクトーバーと彼女の「エンジェルズ」と手を結びます。そして死者の国で、シザーズの女王である緑の目を持つ少女との対決に臨むのでした。

 

そして物語はスタートポイントに戻ります。救出されたウフコックは、なんと再び潜入捜査を再開。しかし今度は孤独な匿名捜査ではなく、パートナーのバロックを始めとする仲間に見守られた合法的な捜査です。彼がアノニマスでなくなって、物語はいよいよ最後の決戦へと大きく動き出していくようです。

 

2021/8