りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウィッシュガール(ニッキー・ロフティン)

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主人公のピーターは、無口でおとなしく人付き合いも苦手な12歳の少年です。彼が都会の学校でいじめにあったこともあって一家はテキサスの片田舎に引っ越してきたのですが、実はピーターは家族の期待も重荷に感じていたのです。両親も姉も陽気で明るいタイプなので、彼は生まれてくる家族を間違ったとすら思いこみむほど。

 

そんなピーターが、ふと迷い込んだ谷で、ウィッシュガールと名乗る奇妙な赤毛の少女に出会います。自分をダメ人間だと思い込んでいたピーターは、芸術家を名乗るアニーと谷の不思議な力によって、次第に自分の個性に自信を持てるようになっていきます。しかしアニーには悲しい秘密があったのです。ウィッシュガールという呼び名の背景には、難病と闘う子供たちを支援する「メイク・ア・ウィッシュ」というボランティア団体の存在があったのでした。小児がんの治療よりも、治療の後遺症で人格が変わってしまうことを恐れるアニーは、ピーターに家出の助けを求めるのですが・・。

 

アニーに治療を進める母親の気持ちも、ピーターに元気になって欲しいという両親の期待も、痛いほどに理解できます。でもその思いが伝わらない時に、人はどうふるまうべきなのでしょう。自分の価値観を押し付けるだけではなく、相手の思いを理解することが大切なのはわかるけれど、どうしたらよいのか途方に暮れることも多いはず。特に相手が家族の場合、難度は上がってしまうようです。たんぽぽの綿毛やホタルの光という魔法を使って美しい谷を「芸術作品」に変えた2人が、谷の力を借りることができたように、なんらかの「きっかけ」が必要なのかもしれません。

 

2021/8