りぼんの読書ノート

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マルドゥック・アノニマス 5(冲方丁)

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ついにバロットがウフコックを救出。脱出の際にハンター一味のナンバー2であるバジルと対峙したバロットは、思いのほかクレバーでフェアなバジルを交渉相手として認めるのですが、彼女のもとにはさらに残虐で悪質な一団である「ガンズ」が迫っていました。 

 

物語は過去に戻ります。バロットは、急速にシティの無法者たちを束ねて反市長派の「円卓」の一員にまで上り詰めた、ハンターという人物の調査に乗り出していました。ウフコックの監禁場所を知るためには、監禁者の実像を掴む必要があったのです。エンハンス技術を生み出した「楽園」を訪れたバロットは、ハンターとオクトーバー一族の意外な過去にたどり着くのでした。そして思いもかけない直観を得るのです。「共感」を武器とするハンターは、「共有」を特徴とするシザーズの一員ではないのかと。 

 

一方で巨大化した組織を束ねて、市長もその一員であるシザーズをたたきつぶそうと決意したハンターは、組織内に浸透しているシザーズメンバーのあぶり出しを始めます。意外な者たちの名前が挙がってくる中で、彼は自分自身の中にある虚無を見つめることになるのでした。ハンターはやはり無自覚なシザーズなのでしょうか。それとも彼のポテンシャルは、シザーズのくびきを断ち切るほどに大きくなろうとしているのでしょうか。 

 

メインストーリーのサイドでは、バロットの成長も描かれます。死の淵から救われたかつての少女娼婦は、異能力を身に着けたのみならず、普通の学生として法律を学んでいます。最下層の生活を知っていることが彼女の強みでもあるのですが、そのためには過去の自分と和解しなくてはならないのでしょう。彼女が母のように慕うベルや、ベルに厚意を抱いた老ガンマンのレイや、オフィスに加わった冷徹な戦略家のライムらも彼女を導きます。そして何より、かつての自分であるような妹分のアビーの心を開かせるための試みが、自分を癒していくのです。 

 

物語は、「ハンター=敵」という単純な構図から大きく逸脱しようとしています。 

 

2020/8