りぼんの読書ノート

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マルドゥック・アノニマス 2(冲方丁)

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物語の舞台は、軍事技術を用いて改造された異形のエンハンサーたちが跋扈する未来都市マルドゥック・シティ。裏社会の悪事を告発するオフィスの一員であるウフコックが、凶悪な犯罪組織「クインテット」に潜入捜査して綴った記録が「アノニマス(匿名)レポート」。ウフコックの正体は人語を解し、次元を裏返して何にでも変身できるネズミであり、武器として濫用されることを怖れる、心優しい存在なのです。

本書では「クインテット」を支配する異能力者ハンターが、裏社会を牛耳って成り上がっていく様子が、潜入観察者であるウフコックの視点から描かれていきます。強い意志と、仲間への信頼と、卓越した戦略によってライヴァル組織をたたきつぶすのみならず、彼らを支配していた「ファンドマネージャー」まで制圧してしまう下剋上の過程は鮮やかで魅力的。そしてハンターは、街の支配階級たる「円卓」の一員にまで上り詰めるのです。

どうやら「円卓」とはエンハンサーを手駒とする旧体制であり、精神を共有するシザーズを用いる新興勢力の市長と対立している模様。「均一化」を求めるハンターの立場は「円卓」とは異なっているのですが、やがて対立の構図も明らかになってくるのでしょう。

本巻は、おそらく自らを濫用しすぎて窮地に陥ったウフコックを、かつてパートナーであった少女バロットが救出に来る場面で終わります。「アノニマスレポート」はまだ中途であり、物語がその場面に至るのはまだ先のことなので、とりあえずは続刊を楽しみに待ちましょう。

2016/12