りぼんの読書ノート

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ハイ・ライズ(J.G.バラード)

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1970年代後半に書かれた、バラード中期の傑作です。舞台はロンドン中心部に近い都市開発地域に聳え立つ40階建ての巨大住宅。1000戸2000人が居住していて、マーケット、プール、体育施設、銀行、学校まで備えた独立世界を形成しています。そこもまた、イギリス特有の階級社会になっている点が本書のポイントになってきます。

10階までの下層部にはTVプロデューサーやスチュワーデスなどの高級労働者、35階までの中層部には医者・会計士・弁護士などの知的労働者、40階までの上層部には大資産家が住んでいるのですが、ある晩に起きた停電をきっかけに階級対立が顕在化し、建物全体が不穏な雰囲気に包まれていくのです。

下層階を代表するプロデューサーのワイルダー、中層階を代表する医師のラング、高層階を代表するこのビルを設計したロイヤルの3人が、視点人物。エレベーターも停止した後、バリケードで封鎖された上層階に向かって階段を上り始めるワイルダーに対し、ロイヤルらは中層階上部の居住者を味方に引き入れて対抗。傍観者に徹する中層階のラングも、かなりしたたか。しかし、革命ともいえる非常事態の中で、誰もが精神を病んでいくようです。やがて死者も発生し・・。

本書のテーマは「閉鎖社会における革命」であり、その結論は「文明崩壊」なのでしょう。事態が進んで電気もガスも通らなくなったビルのベランダで、高級家具を燃やしながらペットだった高級犬を食べるシーンは、かなり不気味です。今さら感もありますが、2015年にハリウッドで映画化されたとのこと。出来栄えはどうなのでしょう。

なお、地上が汚染された世界で超巨大地下サイロ群に住むようになった人類の未来を描いた、ヒュー・ハウアーの三部作、ウールシフトダストは、本書の影響を受けているように思います。

2017/1