りぼんの読書ノート

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ミスター・ミー(アンドルー・クルミー)

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「Mr.Mee」という不思議なタイトルですが、「Me」の変形バージョンである造語に、小説でよくある「書き手でも登場人物でもある私」という意味が込められているようです。

18世紀のフランスでディドロダランベールが編纂した「百科全書」の影に埋もれてしまったという、架空の百科全書をめぐる3つの物語が、交互に綴られていきます。

第1の物語は、86才の独身学者のミスター・ミーが主人公。ロジエなる未知の人物が著したという百科全書の存在を探すため、ネットの世界に足を踏み入れます。ようやく見つけた情報は、ポルノサイトでヌードの女性が手にしている本のタイトル。探索対象がその女性に切り替わった途端、年甲斐もないエロティックな経験をしたりしてしまいます。

第2の物語は、18世紀フランスで謎の人物から「百科全書」の原稿の清書を頼まれた、フェランとミナールという2人の男性の滑稽な体験。原稿を読むうちに奇想に取りつかれて、どんどん逸脱して現実離れしていく様子はコミカルながら不気味です。偶然知り合ったルソーは、いい迷惑。実はこの2人、ルソーの『告白』にちょっとだけ登場する「隣家の2人」にヒントを得た存在だとのこと。

第3の物語は、教え子の女学生に恋情を抱いてしまったルソー研究者のペトリ博士。彼はルソーから、フェランとミナールというほとんど無名の人物にたどり着いたのでした。ひとつ種明かしをすると、ミスター・ミーが見つけたヌードの女性は、その女学生だったのです。

想像つくかもしれませんが、この物語は、結末らしい結末にたどり着きません。エピローグで、ミナールの曾孫という20世紀初頭の人物が登場しますが、何の謎解きも提供してくれないのです。まあ、途中の展開を楽しむ作品なのでしょう。個人的には「幻の百科全書が無から生まれてしまった」という『マイナス・ゼロ(広瀬正)』のような「タイムマシン落ち」ではないかと思っていたのですが・・。

2017/1