りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

楽園のカンヴァス(原田マハ)

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大原美術館の監視員でシングルマザーの早川織絵のもとに、不思議な依頼が舞い込みます。MOMAの門外不出の傑作であるルソーの「夢」を借り出そうとする新聞社に対して、交渉窓口として彼女が指名されたというのです。

かつて新進気鋭のルソー研究家だった織江は、17年前に、現在はMOMAのチーフ・キュレーターとなっているティム・ブラウンと、ルソーの絵の真贋鑑定を競ったことがありました。ある世界的コレクターが所蔵する、「夢」とそっくりの「夢を見た」という作品を判定する材料は、1冊の古書。そこに記されていたのは、最晩年まで認められることのなかったルソーの前衛的な芸術性を、ピカソが見出すに至る物語。それは同時に、ルソーのミューズであったヤドヴィガが、「夢」のモデルとなることを承諾するに至る記録でもあったのです。

2つの作品のどちらか一方は偽物だったのか。両方とも真筆だったのか。「夢を見た」はどうなってしまったのか。そして織江はなぜ、監視員として身を潜めているのか。なかなか興味を引くイントロです。贋作のほうの作品の下には「青の時代」のピカソの大作が眠っているとか、模写をしたのはピカソ自身だったとかの「とんでもない説」が、実はありえたのではないかと思わせる展開は見事です。思いがけない人物がヤドヴィガの孫娘だったというあたりは、少々「盛りすぎ感」もありますが、感動的ですし。

MOMAでの勤務経験がある著者の、はじめての美術ミステリは、なかなかドラマティックです。それにしてもスマホは便利ですね。作品に次々と登場する名画を、読書しながら画像で確認することができるのですから。

2016/8