りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アノニム(原田マハ)

イメージ 1

MOMAに勤務した経験を持つキュレーターで、絵画にちなんだ作品も多い著者による、アート・エンタテインメント小説です。

舞台は中国に返還されて20周年を迎えた香港。「雨傘運動」と名付けられた反政府デモが拡大する中で、一大オークションが行われようとしていました。目玉となるのはジャクソン・ポロックの幻の傑作「ナンバー・ゼロ」。しかしその裏では「アノニム」と名乗る大窃盗団が暗躍しようとしていたのです。

窃盗団といっても、盗難にあった名画をもとの場所に戻したり、金に飽かせて名画を蒐集するコレクターに一泡吹かせたりと、要するに「名画をあるべき場所で展示させる」ことを目的とする義賊なのです。IT長者、美術史家、建築家、ギャラリー経営者、美術品修復家、ブランドオーナー、オークショニア、天才ハッカーという、7人のメンバーも初めから明かされています。アノニムは、アーティストとなることを夢見る一方で、民主化運動への参加をためらっている香港の高校生にコンタクトを取るのですが・・。

かつて絵画における全ての試みがピカソによって成し遂げられてしまったことに悩み苦しんだポロックが、絶望の中から生み出した作品が「アクション・ペインティング・ナンバー・ワン」でした。ポロックと同様に、1枚の絵画から世界を変えてしまおうというアノニムと香港の高校生は、何を生み出すのでしょうか。

という作品なのですが、「アート・エンタテインメント」の試みはあまり成功していませんね。アノニムの犯罪にはスリルがなさすぎ、香港の高校生の行動が世界を変えるようにも思えないのです。ポロックの紹介は、さすがに堂に入ったものなのですけれど。

2018/1