りぼんの読書ノート

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大絵画展(望月諒子)

第14回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作というから、2010年のことですね。受賞当時すでにプロの作家だったと思いますが、それ以降も1~2年に1冊のペースで書き続けていらっしゃいます。ポール・ニューマンロバート・レッドフォードに捧げられた本書は、映画「スティング」を意識していますね。痛快なコンゲーム小説です。

 

ゴッホ作「ガシェの肖像」がロンドンのオークションで日本人実業家に競り落とされたことは有名な実話です。しかし買主の死後にオークションにかけられたことは判明しているものの、現時点では所在不明だとのこと。個人所蔵となると行方不明になりがちな空白期間や、贋作も数多いといわれる絵画の世界は、ミステリ作家にとって美味しい題材なのでしょう。古来数多くあります。

 

バブル期に超高値を謳歌した絵画市場がバブル崩壊とともに値崩れしたことで、多くの名画が倉庫に保管されたままになっているようです。担保価値を下回った価格で売却すると含み損が確定してしまうため、動かしようがないのですね。存在すら公にできない作品もあるようで、これは詐欺師の活躍チャンス。しかし絵画の金銭的価値にしか興味のない金融機関であっても、セキュリティはしっかりしているのです。本書においては「ガシェの肖像」もそんな扱いを受けていたとされています。

 

借金で追い詰められた男女に持ちかけられた依頼とは、何だったのでしょう。それは何のリスクもない内部犯行なのでしょうか。そもそもこの男女は偶然に選ばれたのでしょうか。さらに真の依頼主とは誰なのでしょう。絵画ミステリにつきものの、贋作や、海外市場動向や、ロマンティックな要素のみならず、ナチスによる没収が法的な持ち主を定め難くしている事情も絡めて、よく書けている作品だと思います。一緒に盗み出した数多くの名画を、一時的に片田舎で展示させるアイデアは気に入りました。

 

2022/9