りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウィーンの冬(春江一也)

チェコ大使館に勤務していた1967年に「プラハの春」に遭遇した外交官は、実体験をもとにした同名の歴史小説を綴って作家デビュー。その後『ベルリンの秋』を経て、ソ連崩壊直前の時代を舞台とする本書にて「中欧大河ロマン」は完結を迎えます。

 

プラハの春』ではまだ若々しかった外交官・堀江亮介は、50代になって外務省からリストラ対象となり、社団法人へと出向させられてしまいます。しかしそれは、外務省プロパーの能力が必要とされるが、外務省の肩書を持っていてはできない任務への抜擢でした。要するにスパイですね。東西冷戦は終結したものの、国際的な陰謀が渦を巻くウィーンへと、堀江は向かわされます。

 

今になって思うことですが、ソ連崩壊が秒読み段階に入る中で、ソ連製の武器は世界各国に流出したわけです。イラククウェート侵攻、アフリカ各国で起こった内乱や内戦でソ連製の武器が用いられましたが、アジアには流出しなかったのでしょうか。本書は、日本人である堀江が必要とされた背景として、数年後に大規模テロ事件を起こすことになる日本のカルト教団がウィーンを拠点として武器を買いあさっていたという設定のもとに書かれています。そしてカルト教団を背後で操る北朝鮮や、国際的なテロ組織も関わる中で、大量殺戮兵器の流出も目論まれていたのでしょうか。

 

欧米の一流作家による国際陰謀ミステリには及ばないのですが、日本特有の事情や事件を、国際的な視点から描いた作品はまだまだ少ないのが実情です。『プラハの春』は既読でしたが『ベルリンの秋』は未読です。この際あらためて前2作も読んでみようかと思います。この作家の女性たちの扱いには、少々難を感じるのですが・・。

 

2022/9