りぼんの読書ノート

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スプライトシュピーゲル1(冲方丁)

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永世中立国として誘致してきた国連機関が世界中のテロを招き寄せてしまうという皮肉な災厄に見舞われている、近未来のウィーン。さらに事態を混沌化させている、急速な移民の増加と、ネオナチ的な民族主義の復興。

ここでは、サイボーグとして特殊転送式強襲機甲義肢(通称:特甲)を支給された「特甲児童」たちが、治安維持の一翼を担うようになっていました。超少子高齢化を背景とした児童労働の許可と、重度身体障害者に機械化四肢を与える福祉政策の融合が、それを可能にしていたのです。

姉妹編オイレンシュピーゲル・シリーズ」と連動する本シリーズの主人公は、「燐晶羽(フェデール)」と呼ばれる昆虫の羽根をモデルにした高機動特甲を装備して、空中を羽ばたく「炎の妖精たち」。

小隊長は鳳(アゲハ)。ホバリング性能に優れた紫色のチョウの羽と、超電導重機関銃を片手で抱える要撃手。由緒正しいドイツ家庭のお嬢様でしたが、両親が没頭していたカルト教団の砦に巻き込まれて家族を失い、瀕死のところで救出されました。幼い弟妹を救えなかったことに責任を感じ、子供のテロリストに甘いという弱点を持っています。口癖は「ご奉仕させて頂きますわよーっ」。

スピードスターの青いトンボの羽と、両肘から伸びる超高熱の灼刃(ヒートブレイド)を持つ迫撃手が、乙(ツバメ)。ハイジャックで撃墜された飛行機の唯一の生き残りで、ニヒリストの理由なき反抗娘。海賊フックのように、ペースメーカーが心臓で刻む「時計ワニ音」に追いかけられています。口癖は「ドキドキさせてー」。

超高度の姿勢制御を誇る黄色のスズメバチの羽に、火炎放射器と連結式爆雷を持つ爆撃手が、雛(ヒビナ)。プリンチップ社のサイトに誘導されて作成した自作爆弾の暴発で重傷を負った、大音量でiPODの音楽を聴き続ける自閉症娘。電波的直観で危機を感知する彼女の口癖は「ボクをイジメないでぇーっ」。

他の主要メンバーは、上位組織BVTと対立しながらも理想を現実化していくMSS長官のヘルガ。MSS副官でシュピーゲル指揮官のニナ。特甲の開発者であったバロウ神父。神父に引き取られている天才児の冬真。キリギリスの羽根を持つ接続官の水無月。軍用戦車を操るMSS地上戦術班の御影や日向など。登場人物の日本名は、とんでもないことになっている日本の文化委託事業を引き受けているため。

両シリーズの全巻を通しての悪役は、サラエボの皇太子狙撃犯の名を持つ、武器商人でテロ支援組織である「プリンチップ社」と代理人のリヒャルト・トラクル。テロ事件の黒幕であり、「009」の「ブラックゴーストや「007」の「スペクター」のような巨悪組織です。本巻では幼い子供を含む移民の一家を犠脳兵器に仕立てあげる悪辣ぶりをみせてくれます。

2014/10