2012年に亡くなった巨匠ブラッドベリさんが、2004年に出版された短編集です。1946年から2004年までに書いた作品が収録されていますので、新作だけではないのですが、「ピンピンしているし、書いている」という序文の言葉がいいですね。この当時で84歳ですから。
「さなぎ」: 白人になりたがっている黒人の少年ウォルターは、ビーチで、肌を真っ黒に焼こうとしている白人少年ビルと知り合います。ビルの黒い肌は、夏が終わると剥けてしまうのですが、ウォルターの心は整理がついたようです。初期の傑作です。
「酋長万歳」: インディアン・カジノで合衆国を賭けた勝負に負けてしまった上院議員たち。駆けつけた大統領に、カジノ経営者の酋長は、最後のひと勝負を提案するのですが・・。
「ふだんどおりにすればいいのよ」:かつてメイドをしていた家の子供が立派な作家になり、ニューヨークに向かう列車を途中下車して彼女を訪ねてくる約束だったのですが・・。著者の家が大不況時代にメイドを雇えなくなったことが、罪悪感になっていたのでしょうか。
「屋敷」: 夫が買った古い屋敷が気に入らないと、顔に出てしまった妻。仕方なく屋敷を売りに出す決心をする夫。でも「どのガラスを透かして見るのか人は選べる」のです。いい夫婦関係です。
「用心深い男の死」: ギャングの犯罪を暴く小説を書いて命を狙われている、血友病患者の小説家。いつも注意しているのに、今はギャングの情婦になっている昔の恋人に誘われて・・。男は女に弱いものなのです。
「猫のパジャマ」: 夜の道路で捨てられた仔猫を同時に見つけた猫好きの男女は、どちらも自分が飼うと言って譲りません。夜を徹した話し合いの末、ついに・・。著者の猫好きがストレートに出ていますね。タイトルは、すばらしい人もしくは物を意味する俗語だそうです。
「趣味の問題」: 友好的で善良で知的な宇宙人は人類を歓迎し、人類もそれを理解できたのですが・・。見た目が「蜘蛛」ではねぇ。
「おれの敵はみんなくたばった」: 最後まで長生きした敵の死亡記事を見て、生きる気力を失ってしまった男に対して、友人がとった行動とは・・。やはり、恨みや憎しみは、強い感情なのですね。
「エピローグ――R・B、G・K・C&G・B・S 永遠なるオリエント急行」: ショー、チェスタトン、ディケンズ、トウェイン、ワイルド、メルヴィル、キプリング、ポオ・・。著者が愛した作家たちが乗り合わせている列車に同乗できるなんて、もはや天国のイメージでしょうか。
他に収録されている作品は、暴漢の侵入を異常に怖れる老女を描いた「島」、未来人が新しい下宿人だという「夜明け前」、新星天才画家の正体が意外な「まさしく、オロスコ!シケイロス、然り!」、リンカーンの葬儀列車が現代に現われた「ジョン・ウィルクス・ブース/ワーナー・ブラザーズ/MGM/NBC葬儀列車」、ハイミス姉妹が陥った「三角関係」。
なぜか夏になると子供部屋の下にやってくる「幽霊たち」、夫がパリに旅行する目的が皮肉な「帽子はどこだ、急ぎはなんだ?」、黒人女をレイプした償いが怖ろしい「変身」、道沿いに散らばる死体の謎「ルート66」、作家仲間の奇跡の一夜「雨が降ると憂鬱になる(ある追憶)」、会話の最後に強烈なオチがくる「完全主義者」。
2014/10