りぼんの読書ノート

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院内カフェ(中島たい子)

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漢方小説そろそろくるで、30代女性の微妙な体調の悩みを描いた著者も、もう40代後半。介護の問題や、連れ合いの病とか、それなりのお年頃の女性の悩みも身近に感じるようになってきたのでしょうか。

本書の舞台になっている、総合病院内に併設されているカフェというのは、微妙な存在ですね。病院という閉塞感に満ちた非日常空間の中にある、普通の街中のようなスポットは、一種の緩衝地帯なのでしょう。情毒液の臭いではなくにコーヒーの香りが漂うものの、そこに集まる客は病人か、病人の関係者か、医療従事者が大半。

最初の語り手は、院内カフェで日曜日にバイトしている、不妊に悩む売れない作家。入院しているらしい著名女性作家と編集者不思議な常連客も多い中で彼女は、上品な女性が入院している夫にコーヒーを浴びせかける場面を目撃してしまいます。

そこから語り手は、その女性に移動。いつの間にか両親を介護する生活に入り込んでしまい、両親の死後に自由になったと思ったら、今度は夫が難病で入院。自分の人生を他人のために費やすことに疲れた妻の鬱憤は、病気と正面から向き合えない夫へと向かいます。そして彼女は、封筒に入れたある書類を、夫に手渡す決意をするのですが・・。

著者は作中人物に、「病んでいる人たちは、楽な方に逃げようと『いい話』を求める」という趣旨の発言をさせています。もっともこの作中の小説家も「いい話」を書いているようなのですが、ありきたりの「いい話」には手厳しい。そういえば著者の作品は「いいかもしれない話」くらいに思えます。読み方によっては「いい話」にも「脱力系」にも「非科学的なとんでも話」にも思えてしまう、不思議な作家です。

2017/7