本書はプラハを「歴史の劇場」として捉え、第1部では「歴史の登場人物」を紹介しながらプラハとチェコの歴史を再現し、第2部では「歴史の舞台」となった主要な場所を訪れてくれるという意匠を凝らしていますので、ガイドブック的な理解のためにはぴったり。
「歴史の脇役」として登場するのは、音楽家のモーツァルト、スメタナ、ドヴォルジャーク、作家のカフカ、チャペック、画家のミュシャであり、彼ら芸術家の存在が現在のプラハを理解するためには必要不可欠であることが語られますが、やはり「歴史の主役」は政治家であり、政治を動かした「宗教家」なんですね。
スラブ民族がヴルタヴァ川河畔に集落を形成しはじめたのは6世紀後半のことですが、「歴史」が始まるのは、10世紀になってプシェミスル家が、次いでヴァーツラフ1世が国王に即位してからのようです。14世紀にはカレル1世が神聖ローマ帝国皇帝に選ばれ、神聖ローマ帝国の首都となったプラハは、ヨーロッパ最大級の都市へと発展していきます。
でも、その後のプラハの運命は悲惨です。ローマ教皇庁に抗議したヤン・フスが火刑に処せられた後、フス派の支配するプラハには十字軍が送られます。それを破って2世紀の間カトリックからの独立を維持したものの、ドイツ30年戦争の初期にカトリック支配下に入ると、フス派は徹底的な弾圧を受けます。この時に街をカトリック化するために創られた彫像が、ミラン・クンデラが言うところの「占領軍」なんですね。
「チェコ民族の空白時代」は、第一次世界大戦後のハプスブルク帝国の崩壊まで続きます。念願の独立を果たしたものの、それはつかの間。ナチスによる侵略、ソ連による「プラハの春」の弾圧などの暗い時代が続き、ようやく1989年の「ビロード革命」で「真の独立」を果たしたと言われるのですが、強国の狭間に生きる少数民族の悲哀を一身に背負ったかのような歴史の中で、誇り高く独自の文化を保っている民族であり、街であることがよく理解できました。
2009/7 機内にて