りぼんの読書ノート

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聖灰の暗号(帚木蓬生)

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12~13世紀、ローマ教会によって異端とされ弾圧されたカタリ派のことは、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』で、初めて知りました。教義の違いはともかくとして、同じキリスト教徒に対して「十字軍」を送り込み、一般信徒の大虐殺を行ったという歴史的事実は、中世カトリックの暗い側面です。

1244年に最後の拠点であったモンセギュール山の城砦が陥落してからも100年もの間、「隠れカタリ派」はピレネー山中に生き延びていました。しかしその間の「異端狩りと火刑審問」は、凄惨を極めたものだったようです。これが、スペインの異端審問や、魔女裁判に繋がっていったわけですし・・。

本書では、フランス留学中の日本人歴史学者が700年前の弾圧の様子を克明に記した文書を偶然発見したとして、その架空の文書を「引用」しながら、一方で彼の発見を無きものにしようと迫る「何者か」との追跡劇を描きます。

「現代」の部分は、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ラビリンス(ケイト・モス)』の迫力には及ばないし、推論とはいえ、現実の「ローマ教会」が、実際に歴史的真実を闇に葬ろうとしているかの印象を与えているのは、書きすぎかもしれません。また主人公の日本人が「長崎の隠れキリシタンの村」出身であることや、カタリ派と同時期の日本で、やはり清貧を説いた一遍上人が登場していたことは、あまり掘り下げられませんでしたし、ストーリー的に不要だったかも。

でも本書のミステリー部分は、あくまで興味を繋ぐための副次的なもの。作者は、カタリ派弾圧の歴史的事実を題材として、「不寛容がもたらす悲劇」と「信仰の原点」についてを、普遍的なものとして描きたかったのでしょう。

アルビ十字軍は、宗教的要因もさることながら、当時は独立領であった地方に対するフランス王室の領土的野望が引き起こした側面が強いようです。アルビ十字軍を当時の主役たちの視点から上質の小説に仕立てた『オクシタニア(佐藤賢一)』を読み返してみたくなりました。

2007/9