りぼんの読書ノート

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物語イタリアの歴史(藤沢道郎)

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中公新書の『物語〇〇の歴史』シリーズは、独立から現代まで国家を揺るがしている分裂の危険性を描いた『ナイジェリアの歴史』と、「王権と議会」をテーマとして綴られた『イギリスの歴史』に続いて3冊め。入門書あるいは歴史の復習書として手ごろなシリーズです。 

 

本書は、西ローマ帝国が滅亡した4世紀末から再びイタリア統一が成就される19世紀末までの歴史を、0人の人物を通じて語った作品です。後書きで著者が述べているように「解体から統一へ」というイデオロギーに、ストーリーを従属させてしまうことは危険なのですが、イタリア語では「歴史」と「物語」が同じ単語であることを念頭に置いて読んでもよいかもしれません。 

 

蛮族の侵入に翻弄されながら幼帝を守り続け、今はラヴェンナのモザイクが美しい廟堂に眠る皇女ガラ・プラキディア教皇派として「カノッサの屈辱」の主役となり、皇帝と闘い続けたトスカーナ女伯マティルデ。揺らぎ始めた教会権力に利用された感のある、アッシジ聖者フランチェスコシチリアを領有しつつドイツ領邦国家の礎を築き、交渉でエルサレム返還を成し遂げながら教皇庁から破門された皇帝フェデリーコについては、塩野七生さんの『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』に詳しいですね。 

 

ナポリ出身で『デカメロン』を著わした詩人ボッカチオは、ルネサンス精神のさきがけとなりました。そして銀行家コジモ・デ・メディチフィレンツェに開花させたルネサンスは、彫刻家ミケランジェロの登場をピークに達しますが、大国化したフランスやスペインの前に膝を屈するようになります。17~18世紀の激動期にサヴォイア公国の独立を保ち続けた、国王ヴィットリオ・アメデーオの苦労は身に沁みます。しかし女性遍歴でも名高い司書カサノーヴァが生きた時代のベネツイアは、もはや地方都市でしかありませんでした。ナポレオンがイタリアを蹂躙するのは、彼の死の直後のこと。 

 

しかしナポレオン没落後に再び小国家に分裂したイタリアで、再統一運動「リソルジメント」が起こります。イタリアに傀儡都市を有する大国に何度も制圧されながらも、民衆の革命の灯は消え去ることなく、ついにイタリア王国が建国されるのは1861年のこと。480年の西ローマ帝国滅亡以来、イタリア半島に約1400年ぶりの統一をもたらした革命軍が愛唱したのが、トリノ出身の作曲家ヴェルディが作曲した「黄金の翼に乗って」でした。 

 

イタリアの歴史に触れるたびに、国家と民族の関係について考えさせられてしまいます。それは、東欧諸国やバルカン半島の歴史でも同様なのですが。 

 

2020/1